相続財産の調査方法について知りたい人「父が急死しました。家族で遺産分割をしなければなりませんが、父の財産の状況が全く把握できていません。どのように調べたらよいのでしょうか。」
弁護士の佐々木康友です。
今回は、被相続人の相続財産の調査をするにあたってのポイントについて説明します。
本記事を読んでいただければ、相続財産の調査方法に迷うことなく、速やかに調査を開始できると思います。
- なぜ相続財産の調査が必要か
- 相続財産の調査はどのようにすればよいのか
- 債務の調査はどのようにすればよいのか
- 相続開始後に財産が消滅したらどうするか
相続財産の調査の必要性
相続人は、被相続人について相続が開始したことを知った時から、10ヶ月以内に相続税の申告をしなければなりません(相続税法27条1項)。
また、相続人が複数いる場合、被相続人について相続が開始すると、相続財産は共同相続人の共有に属することになりますが(民法898条1項)、このままでは相続財産を自由に利用・処分ができないため、共同相続人間で遺産分割をして、各相続財産の最終的な帰属先を決める必要があります(民法906条)。
一方、被相続人がお金を借りたり、何らかのサービスを購入するなどして債務を負担している場合、必要に応じて契約解除などの精算をしないと、引き続き相続人が債務を負担し続けることになってしまいます。
これらの手続きを行うためには、まずは被相続人の相続財産の範囲を確定する必要がありますが、被相続人が急死した場合などは、被相続人にどのような相続財産があるのか、相続人がほとんど把握していないことも多いです。
こういった場合、被相続人の相続財産の調査を速やかに開始する必要がありますが、やみくもに調査をしても時間が過ぎるばかりで、いつまでも相続財産の範囲が確定しないことになります。
また、相続財産の調査が不十分なまま、相続税申告や遺産分割を行ってしまうと、その後に相続財産が発見されるなどして、相続税の申告や遺産分割をやり直さなければならない事態にもなり得ます。
そこで、以下では、一般的な相続財産の調査方法を説明していきます。
事前の調査
個別の相続財産について調査を開始する前に、どこから調査に着手すればよいかを判断するため、まずは身の回りから資料を収集するべきです。
例えば、次のようなものを調べることが考えられます。
- 遺言書の有無の調査(公証役場、法務局、弁護士・司法書士・税理士など)
- 郵便物
- 電子メール
- パソコンのデータ
- 携帯電話のデータ
- タンス・倉庫
- 金庫・貸金庫
- 親族・知人などへのヒアリング 等
これらの調査を踏まえ、相続財産の存在する可能性の高いところから順次調査していきます。
以下、個別の財産についての調査方法を説明します。
貸金庫とは、銀行の金庫室に設けられた鍵付きの貴重品の保管場所です。
銀行と貸金庫契約(貸金庫内のキャビネットの賃貸借契約)を締結することによって、貸金庫を使うことができます。
貸金庫を借りていた被相続人がなくなると、貸金庫の賃借人としての地位が相続人に承継されます。
被相続人の死後、相続人が貸金庫を開扉するためには、銀行から、相続人全員の印鑑証明書の提出と、相続人全員の開扉への立会いが求められるのが一般的です。
不動産(土地・建物)
相続財産として不動産があることは多いです。
不動産に固定資産税・都市計画税が課税されている場合は、不動産の所在する市町村(東京都23区の場合は東京都)から、固定資産税・都市計画税納付通知書が送付されているはずなので確認します。
また、不動産の権利証(登記済証)や登記識別情報通知書が金庫などから発見されることがあります。
不動産の所在が明らかになったら、順次、法務局で登記事項証明書を取得しましょう。
法務局で登記事項証明書を取得するには地番が必要です。
住居表示しかわからない場合は、法務局に問い合わせるか、図書館などに備え付けられている住宅地図(ブルーマップ)などから、地番を確認することができます。
不動産に担保が設定されている場合、登記事項証明書に記載されている共同担保目録を確認すれば、担保になっている他の不動産も確認することができます。
また、隣接地との位置関係が分かるので公図も取得した方がよいです。
土地の形状などから隣接地も所有していることが分かることがあります。
その他にも不動産を所有している可能性がある場合は、土地・家屋名寄帳(土地家屋課税台帳、固定資産課税台帳など、市町村により名称が異なる)を確認することをお勧めします。
土地・家屋名寄帳は、固定資産税の納税義務者ごとに登録事項を一覧表にしたもので、不動産の所在する市町村(東京都23区の場合は東京都)で取得することができます。
居住地周辺だけでなく、相続などにより遠隔地の不動産を所有していることもよくあるので、不動産を所有している可能性のある市町村の土地・家屋名寄帳は調べるべきでしょう。
固定資産税・都市計画税納付通知書からは課税物件しか分からないのですが、土地・家屋名寄帳は、非課税物件も記載されています。
また、登記の存在しない、未登記不動産(建物ではよくある)についても、課税物件については記載されています。
登記事項証明書に抵当権が設定されている場合、債権者には被相続人について相続が開始されたことを速やかに連絡すべきでしょう。住宅ローンについては、債務者が死去した場合には残額が免除される特約が付されていることも多いので、ローン契約書・約款を確認することが必要でしょう。
動産
動産についても財産的価値があれば、遺産分割の対象となります。
但し、一般的には価値が低いものが多いので、遺産分割の対象とすることはなく、相続人間において形見分けといった形で分配されることが多いです。
とはいえ、絵画、書画、コイン、宝石、貴金属、骨とう品などの高価品は、その所在、所有者、評価額も含めて、相続人間において分配について争いとなることが多いです。
通常、動産は、自宅のタンス、金庫、蔵に保管されているか、貸金庫に保管されていることが多いです。
貸金庫の開扉には、共同相続人全員の同意が必要となるのが通常ですが、確認しない限り遺産分割が進みませんので、共同相続人全員の協力を得られるようにするべきです。
動産は、いつの間にか散逸することがあり得るので、写真を撮影し、番号を振るなどして識別できるようにして、リスト化しておくことをお勧めします。
預貯金
預貯金については、まずは通帳やキャッシュカードを入手します。
通帳のある金融機関については、複数の口座を開設している可能性がありますので、年金の口座が不明であるとか、家賃収入の口座が不明であるなど、その他にも預貯金口座がありそうなら、全店調査(全ての支店を調べる)を行った方がよいです。
通常は、各金融機関に相続開始時(被相続人の死亡時)の残高証明書を取得しますが、金額の基準となるのは遺産分割時であるため、相続開始時と遺産分割時の期間が開いている場合は、遺産分割時にできるだけ近い残高証明書を取得します。
通帳で取引履歴が確認できない場合はもちろん、より詳細な調査をしたい場合には、各金融機関に取引履歴明細書を取得するべきです。
なお、金融機関により、手数料や取得できる年数は異なります。
取引履歴を確認することによって、収入・支出それぞれについて様々なことが分かることがあります。
また、多額のお金が不自然に引き出されているなど、他の相続人に対する生前贈与、使い込みが発覚する契機になることもあります。
残高証明書、取引履歴明細書の取得は、共同相続人一人であっても申請が可能です(最高裁判所判例平成21年1月22日・民集63巻1号288頁)。
預金・貯金(預貯金債権)の相続については、次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
預貯金以外の債権
被相続人が、家族に知らせることなく他人にお金を貸している場合はよく見られます。
金銭消費貸借契約書や借用書が作成されている場合があるので確認することが必要です。
また、不動産を賃貸しており賃料収入がある場合もあります。
賃貸借契約書があれば確認するか、管理会社に問い合わせを行います。
駐車場、アパート、マンションの賃貸などでは、賃料が預貯金口座に入金される形になっています。
預貯金の取引履歴明細書への入金により、貸付金などが明らかになることもあります。
他人にお金を貸して、借用書などが残っていても、債務者の資力が乏しく返済見込みがない場合には、無価値と判断される場合も多いので注意が必要です。
有価証券
株式、社債、投資信託等
取引残高報告書、年間取引報告書、上場株式配当等の支払通知書、運用報告書などをもとに証券会社などに照会をします。
こういった手掛かりがなくどの証券会社等に証券取引口座が開設されているのか不明の場合は、証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示請求を行うことができます。
但し、証券保管振替機構から開示請求されるのは、証券会社等の名称までなので、開示された証券会社等に個別に照会をする必要があります。
非上場会社の場合は、株券、社債券、会社からの通知などを頼りに会社に問い合わせて確認するしかありません。
ゴルフ会員権
会員証から確認します。
預貯金口座から年会費が口座振替されていることから判明することもあります。
知的財産権
知的財産権についても相続の対象となりますので、調査を忘れないようにしましょう。
特許、実用新案、意匠、商標などの登録により権利の発生するものについては、特許情報プラットフォームで検索することができます。
特許情報プラットフォームとは、日本のみならず欧米等も含む世界の特許・実用新案、意匠、商標、審決に関する公報情報、手続や審査経過等の法的状態に関する情報等が収録されています。
無料で特許情報の検索・閲覧サービスを利用することができます。
著作権は登録されていれば、著作権等登録状況検索システムで検索することができます。
このシステムにより著作物の題号(タイトル)、著作者名、登録されているであろう時期などを手がかりにして検索を行い、その結果をもとに登録事項記載書類等の交付又は閲覧を請求することができます。
生命保険
生命保険については、保険証券や「契約内容のお知らせ」などから、保険会社に対し、契約者・被保険者・受取人・保険の内容が分かる資料を個別に照会します。
保険金の受取人が被相続人であれば相続財産となりますが、受取人が被相続人以外の人であれば保険金は受取人のもので、相続財産とはなりません。
但し、相続税申告では、その保険料の全部又は一部を被相続人が負担していたものは相続税が課税されますので注意が必要です。
入院保険等で未支給の保険金があれば相続財産になります。
自動車・バイク
自動車・バイクについては、登録事項等証明書により対象車両を特定します。
登録事項等証明書が見当たらない場合、ナンバープレート、保険証書、車検、車庫証明書などをもとに、自動車、自動二輪車は陸運局、軽自動車は軽自動車検査協会、原動機付自転車は市区町村に登録情報を確認します。
借地権
被相続人が借地上に建物を所有している場合は、被相続人の借地権が存在しているはずです。
建物の登記事項証明書をもとに土地の登記事項証明書を取得すれば、土地の所有者(地主)がわかります。
土地の賃貸借契約書とともに、地主から話を聞いて確認します。
借地権の相続については、次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
債務
相続人は、相続により、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
つまり、債務も承継しますので調査する必要があります。
金融機関からの借入れについては、融資残高証明書などにより確認できます。
不動産に抵当権が設定されている場合にも、登記事項証明書から確認できます。
個人間の借入れについては、金銭消費貸借契約書や借用書などにより確認するか、預貯金口座から送金がされている場合もあります。
その他、クレジットカード、請求書、振込伝票などからも確認できることがあります。
第三者の保証人になっている可能性もありますが、保証契約書がなければ調査は簡単ではありません。
個人的借入れとヤミ金融以外は下記機関で被相続人の債務を調査できます。
全国銀行個人信用情報センターは消費者信用の円滑化等を図るために、一般社団法人全国銀行協会が設置、運営している個人信用情報機関です。
株式会社シー・アイ・シー(CIC)は、クレジット会社の共同出資により設立された、主に割賦販売や消費者ローン等のクレジット事業を営む企業を会員とする信用情報機関です。
また、CICは、割賦販売法および貸金業法に基づく指定信用情報機関として指定を受けた唯一の指定信用情報機関です。
日本信用情報機構(JICC)は、信用情報の管理・提供を通じて、消費者と会員会社の健全な信用取引を支える指定信用情報機関です。
相続開始から遺産分割までに相続財産が失われた場合
相続開始から遺産分割までに相続財産が処分されるなどして消滅することがあります。
どの時点で存在する相続財産を遺産分割の対象とするのかが問題となりますが、実務上は遺産分割時点で存在する相続財産を遺産分割の対象としています。
したがって、相続開始以後、相続財産が消滅したかわりに発生する財産(保険金請求権、損害賠償請求権等)は、相続財産ではないので遺産分割の対象とならないのが原則です。
但し、相続人全員の合意があれば、処分された相続財産が遺産分割時に存在するものとして、遺産分割の対象にすることができます(民法906条の2第1項)。
なお、相続人の一人が処分したことによって相続財産が消滅した場合は、他の相続人の合意があれば、処分された相続財産が遺産分割時に存在するものとされます(民法906条の2第2項)。
まとめ
今回は相続財産の調査方法について説明しました。
上記の調査は、相続人であることを証明する書類等を準備することによっていずれも行うことができるものですが、証明書の準備、申請書の作成、各機関の担当者とのやり取りなどには手間や時間が掛かります。
一つずつ手続きを行っていくしかないため、多数の相続財産がある場合は、すべてを調査するまでにどうしても時間が掛かります。
その場合は、費用は掛かりますが、弁護士などの専門家に調査を一任してしまうのも一つの考え方だと思います。