一般定期借地権について知りたい人「地主です。不動産業者から、マンションを建てたいので土地を貸してほしいと言われています。先祖代々の土地なので手放したくはないですし、いつかは返してもらえるようにしたいです。何かよい方法はありますか。」
弁護士の佐々木康友です。
上記のような希望を持たれている地主はいらっしゃると思います。
普通借地権(借地借家法2条1号)の場合、借地権者(土地の借主)の権利が手厚く保護されているため、借地期間が満了しても借地契約の更新が認めれられますし、しかも最終的に借地契約が終了する際には、借地権者に建物買取請求権が認められています。
これに対し、定期借地権の場合、借地契約の更新もなく、建物買取請求権も認められていないので、借地期間が満了したら、更地の土地を返してもらえます。
したがって、地主に上記のような希望がある場合は、定期借地権を選択するのがよいでしょう。
但し、定期借地権は、普通借地権に比べると地主に有利な反面、定期借地権の成立要件は厳格に定められているため、借地借家法の規定に従って契約を行わないと、定期借地権の効力が発生せず、普通借地権となってしまい、想定外の事態となってしまいます。
地主が一般定期借地権のメリットを最大限に生かすためには、定期借地権の性質を十分に理解したうえで、借地借家法の要件に正確に従った契約をする必要があります。
この定期借地権ですが、次の3種類があります。
- 一般定期借地権
- 事業用定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
このうち、今回は一般定期借地権について説明します。
少し長くなりますが、一通り読んでいただければ、一般定期借地権に対する不安は大幅に解消されるのではないかと思います。
- 定期借地権とは、借地契約の更新(借地借家法5条)、建物の築造による存続期間の延長(借地借家法7条)、借地権設定者に対する建物買取請求権(借地借家法13条)がない借地権
- 一般定期借地権は、借地権の存続期間が50年以上、建物用途に制限なし、書面や電磁的記録による契約は必要だが、公正証書による必要はない
- 一般定期借地権は、確実に土地が更地で戻ってくる契約ではあるが、借地権の存続期間が50年以上に及ぶものであり、契約どおりに土地が戻ってこない事態も想定されるので、契約上の対策を講じておくことが必要
- 普通借地権から一般定期借地権への切り替えは簡単ではない
- 借主からの借地契約の中途解約は、契約に特約を定めておけば可能
事業用定期借地権と建物譲渡特約付借地権については次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
そもそも借地権とは
借地権とは
定期借地権は、借地権の特別な類型の一つです。
つまり、定期借地権も借地権の一つですので、まず、一般的な借地権の要件を満たす必要があります。
そこで、そもそも借地権とは何かについて簡単に確認しておきましょう。
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権です(借地借家法2条1号)。
つまり、借地権の要件は以下の2点です。
- 建物所有目的であること
- 地上権又は土地の賃借権であること
例えば、駐車場用地として土地を貸す場合は、①建物所有目的とはいえないので、原則として土地の利用権は借地権とはなりません。同様に、ゴルフ場用地なども、クラブハウスが建設されたりしますが、ゴルフ場全体として見ると、やはり①建物所有目的とはいえないので、原則として借地権とはなりません。
一方、土地をただで借りている(使用貸借)場合(民法593条)も、②地上権又は土地の賃借権ではないので、原則として借地権とはなりません。
借地権の効力
土地の利用権が、借地借家法の借地権に該当すると、同法に基づいて、借地権者(土地の借主)は手厚く保護されます。
一覧で示すと次のとおりです。
- 借地権の存続期間(借地借家法3条)
- 借地権の更新後の期間(4条)
- 借地契約の更新請求等(5条)
- 借地契約の更新拒絶の要件(6条)
- 建物の再築による借地権の期間の延長(7条)
- 借地契約の更新後の建物の滅失による解約等(8条)
- 借地権の対抗力等(10条)
- 建物買取請求権(13条)
- 第三者の建物買取請求権(14条)
このなかで特に重要な借地権の効力が次の3つです。
このあと説明する定期借地権に対し、上のような通常の借地権を普通借地権ということがあります。
普通借地権については次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
定期借地権とは
以下、借地権設定者のことを地主といい、借地権者を借主として説明しています。
上で説明した借地権の効果のうち、特に重要なものは次の3つです。
- 借地契約の更新(借地借家法5条)
- 建物の築造による存続期間の延長(借地借家法7条)
- 地主に対する建物買取請求権(借地借家法13条)
これらは、借主を保護するのには大いに役立ちますが、その分、地主にとっては大きな負担となります。
例えば、借地契約の更新(借地借家法5条)については、地主に正当事由(借地借家法6条)があれば、借地契約の更新を拒絶することができますが、裁判所は簡単には正当事由を認めてくれませんし、認めてくれる場合であっても立退料の支払いが命じられることが多いです。
また、地主に対する建物買取請求権(借地借家法13条)についても、地主は原則的に拒否できません。
つまり、いったん土地を貸すとなかなか土地が戻ってこず、土地が戻ってくるとしても建物を買い取らないといけないことから、地主が土地を貸そうとせず、土地活用が阻害される問題が指摘されていました。
借主を保護するための規定のために、かえって土地の有効利用が阻害されてしまうというのでのは本末転倒というほかありません。
そこで、平成4年に借地法(旧借地法)が廃止されて、新たに借地借家法が制定されるにあたり、一定期間が経過すると土地が確実に返還される特別な借地権が創設されました。
これが定期借地権です。
定期借地権の場合、借地期間が満了すると、借地契約は更新されることなく終了します。
借地権は消滅し、借地上に建物がある場合は解体され、土地は更地にして返還されます。
広い意味の定期借地権としては次の3つがあります。
- 一般定期借地権(借地借家法22条)
- 事業用定期借地権(借地借家法23条)
- 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)
今回は、このうち一般定期借地権(借地借家法22条)について説明します。
一般定期借地権とは(普通借地権・事業用定期借地権との違い)
さて、今回の本題である一般定期借地権とはどのような借地権でしょうか。
一般定期借地権とは、借地借家法22条に規定する定期借地権です。
借地借家法22条(定期借地権)
借地借家法
1 存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、第9条及び第16条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第1項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第38条第2項及び第39条第3項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、前項後段の規定を適用する。
借地借家法22条の見出しは「定期借地権」となっていますが、一般的な性質をもつ定期借地権として、以後は「一般定期借地権」として説明します。
上でも説明しましたが、広い意味での定期借地権には、次の3つがあります。
- 一般定期借地権(借地借家法22条)
- 事業用定期借地権(借地借家法23条)
- 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)
一般定期借地権とはどういった借地権なのか説明するのは簡単ではありませんが、
- 普通借地権との違い
- 事業用定期借地権との違い
を意識することにより理解しやすくなります。
そこで、以下では、普通借地権・事業用定期借地権と比較しながら、一般定期借地権の性質を説明します。
一般定期借地権と普通借地権との違い
まずは、普通借地権との違いを説明します。
普通借地権に対し、一般定期借地権は特別の借地権になります。
普通借地権では次の3つが認められますが、一般定期借地権ではこれらが認められません。
- 借地契約の更新(借地借家法5条)
- 建物の築造による存続期間の延長(借地借家法7条)
- 借地権設定者に対する建物買取請求権(借地借家法13条)
この3つの権利は、借主の保護を厚くするため、普通借地権で認められているものですが、その反面として、地主にとっては大きな負担となります。
一般定期借地権では、地主の負担を軽減し、地主にとってより使いやすい借地権にするため、この3つを認めないことにしたのです。
普通借地権では、借地契約において、上記の①~③を認めない特約を定めても、借地権者に不利な内容であるとして無効となります(借地借家法9条、16条)。
このように一方に不利な内容の契約を定めても無効となる規定を片面的強行規定といいます。
一般定期借地権の場合は、片面的強行規定である借地借家法9条、16条が適用されない仕組みとなっているため(同法22条)、借地借家法9条、16条に反する特約をしても無効とはなりません。
一般定期借地権では認められない3つの権利(借地契約の更新、建物の築造による存続期間の延長、借地権設定者に対する建物買取請求権)について補足して説明すると次のとおりとなります。
- 借地契約の更新がない
-
普通借地権では、借地権の存続期間が満了しても、借地権者は借地契約の更新請求ができます(借地借家法5条)。
地主は、正当事由がなければ更新を拒絶できません(借地借家法6条)。
これに対し、一般定期借地権では、借地契約の更新がありません。
つまり、借地契約は更新せずに終了します。 - 建物の築造による存続期間の延長がない
-
普通借地権では、借地権の存続期間満了前に建物を再築した場合、借地権者の承諾(2ヶ月以内に異議を述べない場合も承諾があったものとみなされる)があれば存続期間を延長できます(借地借家法7条)。
これに対し、一般定期借地権では、存続期間の延長はありません。 - 借地権設定者に対する建物建物買取請求権がない
-
普通借地権では、借地権の存続期間が満了して借地契約の更新がない場合、借地権者は、地主に対し、借地上の建物を時価で買い取るように請求ができます(建物買取請求権、借地借家法13条)。
これに対し、一般定期借地権では、建物買取請求権がありません。
一般定期借地権と事業用定期借地権の違い
次に事業用定期借地権との違いを説明します。
上でも説明しましたが、広い意味での定期借地権には、次の3つの種類があります。
- 一般定期借地権(借地借家法22条)
- 事業用定期借地権(借地借家法23条)
- 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)
このうち、一般定期借地権と事業用定期借地権の違いは次の3点です。
一般定期借地権 (借地借家法22条) | 事業用定期借地権 (借地借家法23条) | |
---|---|---|
建物の 用途制限 | 制限なし | 専ら事業用途に制限 |
借地権の 存続期間 | 50年以上 | 30年以上50年未満(23条1項) 10年以上30年未満(23条2項) |
借地契約の 方法 | 口頭はダメだが 書面又は電磁的記録であればよい (公正証書でなくてよい) | 公正証書でなければならない |
まず明確に違うのが借地権の存続期間です。
一般定期借地権は、借地権の存続期間は50年以上、事業用定期借地権は10年以上50年未満(但し1項と2項で分かれる)、はっきりと期間が分かれています。
借地上の建物については、一般定期借地権では用途制限はされませんが、事業用定期借地権ではその名のとおり事業用途目的に制限されます。
一般定期借地権は、50年以上の長期に及ぶため、戸建住宅やマンションの敷地として使用する場合に設定されることが多いです。
つまり、借地期間50年未満では、戸建住宅やマンションの定期借地権は定められないということですね。
小まとめ
以上より、一般定期借地権は次のような特徴を持つ借地権だといえます。
特徴 | |
---|---|
普通借地権との違いから | 借地契約の更新(借地借家法5条)がない 建物の築造による存続期間の延長(借地借家法7条)がない 借地権設定者に対する建物買取請求権(借地借家法13条)がない |
事業用定期借地権との違いから | 建物の用途制限がない 借地権の存続期間は50年以上 口頭はダメだが書面又は電磁的記録であればよい(公正証書でなくてよい) |
一般定期借地権の要件
それでは、どのような要件を満たせば、普通借地権ではなく、一般定期借地権となるのでしょうか。
まず、少し長いですが、改めて借地借家法22条の条文を確認しておきましょう。
借地借家法22条(定期借地権)
借地借家法
1 存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、第9条及び第16条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第1項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第38条第2項及び第39条第3項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、前項後段の規定を適用する。
条文も長く、理解するのは簡単ではありませんが、借地借家法22条1項をによれば、一般定期借地権となるには以下の要件を満たす必要があります。
- 存続期間が50年以上であること
- 借地契約の更新をしない特約があること
- 建物の築造による期間の延長がない特約があること
- 建物買取請求をしない特約があること
- 公正証書等の書面又は電磁的記録によって特約が定められていること
①については借地権の存続期間を50年以上に定めないといけないということです。
⑤については借地契約の方式に関するもので、口頭で契約するとは許されず、書面か電磁的記録によらなければならいということです。
②~④については一般定期借地権設定契約では②~④の内容の特約をすることが必要ということを意味しています(②~④の意味はこちらをご覧ください。)。
それでは、②~④の内容の特約はすべて定める必要があるのでしょうか。
例えば、②と③は定めるが、④は定めないということは許されるのでしょうか。
借地借家法22条1項の条文が、「契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる」とされているだけで、上記②~④の特約をすべて定めることが必要とまではされていないようにも読めることから問題となります。
この点については、学説上は、すべてを定める必要はないという意見もあります(②と③の特約は必要だが、④の特約は必ずしも必要ないという意見が有力です。)。
しかし、一般定期借地権について登記する場合は、②~④の3つの特約は必要と考えられています。
そのため、紛争を避ける観点からも、一般定期借地権設定契約では②~④の特約をすべて定めなければならないと考えるべきでしょう。
以下、各要件について、ひとつずつ説明していきます。
なお、一般定期借地権設定契約のひな形は定期借地権推進協議会のホームページに掲載がありますので参考にしてください(使用については、当該ホームページの規定に従ってください。)。
「借地契約を締結したが一般定期借地権の要件が欠けていた」という場合、普通借地権が成立することになります。この場合、普通借地権である以上、上記②~④を特約で定めていたとしても、借地借家法9条及び16条により無効となります。
①存続期間が50年以上
一般定期借地権設定契約では、借地権の存続期間については、50年以上で定める必要があります。
しかも漠然とした期間ではなく、確定された期限で定める必要があります。
つまり、
・●年●月●日まで
・契約日から●年
といった形で50年以上の期限をはっきり確定させる必要があります。
- 存続期間を定めない
- 50年未満の存続期間を定めている
- 「永久」と定めている
- 「●年以上」とあいまいな期間を定めている
契約書の記載が上のような内容の場合、一般定期借地権の設定契約としては無効となり、普通借地権として扱われることになるので注意してください。
②借地契約の更新をしない特約があること
一般定期借地権設定契約において、借地契約の更新(借地借家法5条)をしない旨の特約を具体的かつ明瞭に定める必要があります。
借地権設定契約書の表題に「一般定期借地権契約」などと記載されていても、それだけでは一般定期借地権としての効力は発生しませんので注意が必要です。
これについては他の特約(③と④)も同様です。
一般定期借地権については、借地借家法22条1項において「第9条及び第16条の規定にかかわらず」とされていることから、借主に不利な特約(②借地契約の更新(借地借家法5条)をしない特約)を定めても無効となりません。
このことは、③建物の築造による期間の延長がない特約、④建物買取請求をしない特約についても同じです。
③建物の築造による期間の延長がない特約があること
一般定期借地権設定契約において、建物の築造による期間の延長(借地借家法7条)がない旨の特約を具体的かつ明瞭に定める必要があります。
④建物買取請求をしない特約があること
借地権設定契約において、建物買取請求(借地借家法13条)をしない旨の特約を具体的かつ明瞭に記載する必要があります。
建物買取請求権については、次の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
⑤公正証書等の書面か電磁的記録によって特約が定められていること
一般定期借地権設定契約の特約(②~④)は書面により定める必要があります。
借地借家法22条1項の条文上は、「公正証書」と記載されていますが、これは例示です。
ですので、書面で一般定期借地権設定契約の特約が定めてありさえすればよく、公正証書である必要はありません。
これに対し、事業用定期借地権(借地借家法23条)については、公正証書が必要です。
一般定期借地権について定めた借地借家法22条1項では、「公正証書による等書面によってしなければならない」とされているのに対し、事業用定期借地権を定めた同法23条3項では、「公正証書によってしなければならない」とされているからです。
なお、一般定期借地権について定めた借地借家法22条1項は、「特約は、公正証書による等書面によってしなければならない」と定められており、契約全体を書面によってしなければならないとまでは言っていませんが、実務上は、全てについて契約書を作成するのが通常でしょう。
また、2022年の借地借家法の改正により、同法22条2項が新たに定められ、特約は、書面だけでなく電磁的記録によることも可能となりました。
電磁的記録とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの」とされています(借地借家法22条2項)。
要するに、データそれ自体か、データがハードディスク等の媒体に記録された状態をいいます。
一般定期借地権の効果
一般定期借地権が成立すると、次の3つの特約が有効となります。
- 借地契約の更新をしない
- 建物の築造による期間の延長がない
- 建物買取請求をしない
普通借地権では地主にとって大きな負担となっていることが、一般定期借地権では認められないこととなるのですから、地主にとってこの特約はとても大きな効果です。
この特約により、一般定期借地権の借地契約の存続期間が満了すると、借地契約は更新されることなく終了します。
借主は、建物買取請求権を行使できず、借地上に建物を更地にして、地主に土地を返還する必要があります。
その他の事項については、借地借家法の規定に従います。
上記にかかわらず、借地権の存続期間満了後に借地契約を再契約したり、再契約の予約をすることは妨げられないものと考えられます。
また、借地契約の存続期間の満了前に、借地期間の期間の延長を合意することも可能です。
建物買取りについても、地主と借主が建物譲渡を合意することまでは妨げられないものと考えられます。
一般定期借地権のメリット・デメリット
ひととおり一般定期借地権の性質・要件・効果について説明しました。
借地借家法には、普通借地権のほかにも、一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権、一時使用目的の借地権といった特別な借地権が規定されています。
これらの借地権から、地主の意向に適した契約形式を選択することが重要です。
以下では、普通借地権や事業用定期借地権と比較した場合、一般定期借地権にどのようなメリット・デメリットがあるかを説明します。
貸主・借主のどちらの立場であるかによって、メリット・デメリットは異なるものですが(一方のメリットは他方のデメリットになることが多いです。)、ここでは地主(借地権設定者)のメリット・デメリットから考えていきます。
メリット
土地が確実に更地で返却される
一般定期借地権では、借地契約の更新がないため、借地期間が満了すれば土地は更地として返却されます。
普通借地権のように、大切な土地が半永久的に借主に使用されたり、借地契約の終了時に建物を買い取らなければならないといったことはありません。
また、土地の返却時の建物の解体費用も借地権者が負担します。
長期にわたり安定して賃料・地代が支払われる
一般定期借地権は、地主との間で賃借権・地上権を設定するものなので、賃料・地代が支払われます。
一般定期借地権は、借地期間が50年以上であるため、長期にわたり安定して賃料・地代収入を得ることができます。
ただし、地価の変動などにより賃料・地代の値下がりのリスクもあります。
用途が制限されない
事業用定期借地権については事業用途目的に限られますが、一般定期借地権については用途目的は制限されません。
戸建住宅やマンションのみならず、事業用定期借地権の対象となる店舗・事務所等について設定することもできます。
デメリット
借地期間が50年以上と長い
普通借地権の存続期間は30年以上、事業用定期借地権の存続期間が10年以上50年未満であるのに対し、一般定期借地権の存続期間は50年以上と長期になるため、地主の短期・中期の土地活用は困難となります。
もちろん、地主と借主で合意ができれば契約の中途解約も可能ですが、借主より相当額の経済的補填が求められるのが通常です。
契約は書面又は電磁的記録で行わなければならない
一般定期借地権設定契約は、書面又は電磁的記録で行う必要があります。
ただし、事業用定期借地権のように公正証書による必要はありません。
とはいえ、一般定期借地権は借地期間が50年以上となるので、書面又は電磁的記録によって契約内容を明確にしておくのは当然のことです。
借地借家法22条では求められていませんが、できれば公正証書も作成した方がよいでしょう。
一般定期借地権設定契約を締結する際の留意点
上記の一般定期借地権のメリット・デメリットも踏まえ、一般定期借地権の設定契約を締結する際の留意点について説明します。
一般定期借地権の存続期間は50年以上と長期に及びます。
50年以上の存続期間が満期を迎えるまでに、地主・借地権者を取り巻く環境が大きく変化し、地主・借地権者とも死去して相続が発生している可能性も十分に考えられます。
一般定期借地権の存続期間が満了した際に、その時の借主により、速やかに借地上の建物が解体・撤去され、地主に土地の明渡しが行われる保証があるものではないと言わざるを得ません。
そこで、地主としては、一般定期借地権設定契約を締結するにあたっては、50年以上後の一般定期借地権の存続期間の満了を見据えて、速やかに土地の明渡しが行われるための措置を講じておくことが必要となります。
いずれの方法によっても、完全にリスクを回避できるものではありませんが、例えば、一般定期借地権設定契約に次のような特約を定めることが考えられます。
- 借主が明渡しを遅延した場合、1日あたり一定額の延滞金を課すことにする
- 借主が建物の解体・撤去等の原状回復を行わない場合に備え、原状回復に要する費用の相当額の保証金(敷金)の支払いを求める
- 借地権上に分譲マンションが建設されている場合において、マンション管理組合に対し原状回復費用の積立を行うことを義務付ける
一般定期借地権は、1992年8月1日に施行された借地借家法に新たに規定された借地権ですので、同日以降に設定された借地契約にしか適用されません。
一般定期借地権の存続期間は50年以上ですから、一般定期借地権の存続期間が満了するのは、早くても2042年7月31日以降になります。
そのため、一般定期借地権の存続期間が満了した際、どのような問題が生じるかは予想の範囲を出るものではないのが現状ですが、できるだけのことはしておくべきでしょう。
一般定期借地権の登記
一般定期借地権の設定登記を申請する場合、借地借家法22条前段に基づく定期借地権であることが登記事項とされます。
また、添付書類としては、
- 借地借家法22条に基づく特約を定めた書面
- その他の登記原因を証する情報
を提出する必要があります(不動産登記令別表の33項・38項)。
上でも述べたとおり、登記実務では、一般定期借地権の3つの特約は不可分であると考えられていますから、少なくとも一般定期借地権の登記する場合には、3つの特約をすべて定めることになるでしょう。
普通借地権から一般定期借地権への切り替えは簡単ではない
一般定期借地権の特約は、最初の借地権設定時に定めなければならないと考えられます。
普通借地契約締結後に一般定期借地権の特約を追加することを認めると、例えば、地主が地代の増額をしないかわりに、借主に定期借地権への転換を要求するなどして、借主が不利な状況に置かれる可能性があるからです。
裁判例においても、普通借地権から定期借地権への切り替えができるかについて、「相応の合理的理由があり、その中で、当事者間で真に合意されたといえる場合でなければ、別途契約を締結し直すことにより定期借地権に切り替える旨の合意が有効とはならない」とされています(東京地裁判決平成29年12月12日)。
普通借地権から定期借地権への転換が全く認められないわけではないですが、借主の真意に基づくものであるかどうかは相当に慎重に判断されることになると思いますので、やはり最初の借地権設定時から、一般定期借地権の特約は定めておくようにすべきでしょう。
一般定期借地権設定契約を中途解約できるか
地主又は借主は、一般定期借地権設定契約を中途解約することはできるでしょうか。
まず、借主からです。
定期建物賃貸借の場合、やむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃貸借の解約の申入れができます(借地借家法38条5項)。
これに対し、一般定期借地権では、借主が契約を中途解約できるような規定は設けられていません。
したがって、原則的に、地主は一般定期借地権設定契約を中途解約することはできないと考えられます。
しかし、地主において借地契約を中途解約する可能性がある場合は、一般定期借地権設定契約に中途解約ができる旨の特約を設けておけば、その特約に基づいて中途解約をすることはできます。
一方、地主についてですが、地主の中途解約権を認める特約を設けることは、借地権者に不利な特約であるため無効となるものと考えられます(借地借家法9条)。
一般定期借地権についてお困りごとがある場合はさいたま未来法律事務所へ
今回は、一般定期借地権について説明しましました。
一般定期借地権は、借地借家法の規定に従った契約を行わないと、一般定期借地権の効力が発生せず、普通借地権となってしまいますし、借地期間も50年以上と長期に及ぶため、契約締結時には予測がつかないことも起こり得ます。
特に、一般定期借地権の長期の契約期間において想定されるリスクを洗い出し、契約書に契約内容を的確に表現するのは工夫を要する場合も多いです。
さいたま未来事務所の弁護士は、建築・不動産分野を得意分野としています。
例えば、一般定期借地権設定契約の締結にあたり、借地借家法の趣旨に反しない範囲で、地主の皆様の意向を可能な限り反映した契約内容を検討することもできます。
一般定期借地権についてお困りごとがある場合は、当事務所にいつでもご相談ください。